創業希望の方や創業して間もない方からよく、
「創業融資を借りても、返済が不安だから自己資金だけで開業しようかと迷ってます」
というご相談を受けることがあります。
こんな時、「自己資金だけで」と希望する創業者の方に対して、けして無理強いするものではありませんが、もし、迷っているようでしたら、借りることをおすすめしています。
今回は、なぜ創業融資を借りた方がよいのかということについて、以下説明させていただきます。
結論: 借りたいときに貸してもらえないから
創業から1年もすると
「今はまだ赤字だけれどあと少し事業を継続できれば軌道に乗る」
とおっしゃる事業者は少なくありません。
しかし、その時になって急に融資を申し込んでも業績が悪化したままの企業に
融資してくれる金融機関はほとんどないのです。
創業のために準備していた資金(自己資金)や調達した資金(創業融資等)が1年以内に枯渇し、事業が継続できなくなった結果、廃業せざるを得ないということになります。
だから、創業融資は借りておいた方がよい。という結論になります。
具体的に説明していきます。
創業者の生存率
「創業者の3割は1年以内に廃業し、5割は3年以内に廃業する。10年後まで生き残っている創業者は1割程度」…という話を何度か聞いたことがあるでしょう。
私も、この話を聞くことはあっても、正直、この数値の根拠となるデータを見つけることができておりません。
実際のところは、ここまで廃業する可能性が高いとは思いませんが、遠くもないかと思います。日本政策公庫の「2022年度新規開業実態調査」(12ページ)によると、創業者の開業後の状況として、3.5割程度は赤字基調です。赤字基調だからといって、すぐには廃業しませんが、赤字基調であれば、そのままであれば資金不足に陥りますので、1年以内の廃業率3割というのは、あながち遠い数字ではないのです。
このような1年以内に廃業した創業者の多くは、「あと1年(半年という方もいます)粘ることができれば、事業を軌道に乗せられたのに」とこぼします。
大半の方が、計画通りではないながらも、売上は増加していっていたのです。ただ、その売上増加スピードが計画よりも遅かったため、資金繰りが苦しくなるわけです。
手応えは感じていたのに、資金繰りの問題を解消できなかったが故に廃業せざるを得なかったのは、非常に悔しいものです。
「あと1年粘ることができれば」と肩を落とす創業者が、資金繰りが悪化したとき追加の運転資金を借りることができれば、多くは生き残れるでしょう。
つまり「創業者の3割」といわれる1年以内の廃業は、準備次第で防げるのです。
日本政策金融公庫は創業1年後の追加融資を(そう簡単に)行わない
創業者の95%は、日本政策金融公庫の創業融資で創業資金を調達します。
すべてのケースそうではないですが、基本的に公庫は創業融資を行った事業者が1年後に「準備していた資金が枯渇したので、追加で運転資金をとお願いします」と言っても、ほぼ貸してくれません。
なぜならば、基本的に公庫には、「創業融資の借入額の半分程度を返済してもらわなければ、次の融資は取り扱わない」という暗黙のルールがあるからです。
もちろん、業績が順調で前向きの追加資金を希望する事業者には、半分返済が終わっていなくても追加融資に応じてくれます。
しかし、創業計画のとおりには進んでおらず、業績が悪化している事業者には、原則的に追加融資を行いません。
基本的に創業融資の場合、「設備資金」は7年返済、「運転資金」は5年返済が多いです。
据置期間なしで借りてすぐ返済を始めても、半分を返済できるのは、「設備資金」は3年半、「運転資金」は2年半です。
1年以内に追加資金を借りようとしても、公庫は「半分返済していただいてから検討させてください」と、ほとんどの場合、断ってきます。
すると、創業1年後に赤字基調で、かつ創業資金を使い果たしそうになるものの、公庫から追加融資してもらえないという状況になります。これを「創業1年後の資金繰りの沼」と呼んでいます。
公庫と同時に民間金融機関からも借りる
では、「創業1年後の資金繰りの沼」にハマらないためには、どうすればよいか?
それは、資金繰りが最大ピンチになる1~2年後を見越して「民間金融機関からも創業融資を借り、関係性を深め、支援してもらえる態勢の構築」をすることです。
公庫の創業融資を借りるとき、同時に民間金融機関からも創業融資をしてもらうためは、下記のような方法があります。
- 公庫に提携融資先を紹介してもらう
- 公庫が創業融資を認可するのを条件に、民間金融機関に創業融資を申請
- 公庫から創業融資を借りられたことを材料に、民間金融機関に融資を申し込む
- 公庫と民間金融機関の創業融資を並行して、同時に申し込む
創業融資のデメリットは何か?
逆に創業融資を行うことでのデメリットはなんでしょうか。以下のことが考えられます。
利息負担が必要
創業融資を借りなければ、発生しなかった利息という追加的なコストが発生してしまうというデメリットがあります。
しかし、上記の創業融資のメリットを享受するための、必要経費として考えていただきたいです。
創業融資を例えば、500万円借りた場合、日本政策金融公庫の創業融資は、だいたい利率1%~3%に収まりますので(ブログ執筆時点)、最大で15万円/年間となります。
これは税務上、事業経費にもなりますし、これを高いと捉えるか安いと捉えるかは、その方の判断によると思いますが、私は事業を行う上で、必要な経費として捉えた方がよいと考えています。
なお、日本政策金融公庫の金利は利用する融資制度や担保の有無、資金使途、返済期間などによっても変わる可能性がありますので、実際の金利がどのくらいになるのかは、日本政策金融公庫の支店窓口に問い合わせてみてください。
元金返済が必要
当然ですが、あくまでも融資なので、利息をつけて満額返す必要があります。
融資は借りた後、「どう使うのか」と「どう返すのか」が重要になってきます。損益の計画や資金繰りの計画を立てながら、返済することが必要になってきます。
事業計画書作成など手間がかかる
創業融資を借りる場合には、創業計画書や事業計画書の作成が必要です。
借入額が少なくて、かつ自己資金が潤沢にある場合などは創業計画でも借りられる場合がありますが、そうでなければ事業計画書を作成することが望ましいです。
事業計画は、経営者の略歴から事業内容や、損益の計画と資金繰りの計画が必要になり、作成するのは簡単ではありません。専門家に頼む場合は、コストが発生してしまうので、その意味ではデメリットとなります。
しかし、事業計画等を作成すること自体に価値があります。事業の成功率が計画があるのとないのでは、大きく違うからです。その点も含めて、デメリットとして考えるか、将来の事業計画を作成・検討する良い機会と捉えるのか、考えてみてください。
経営者保証等が必要なケースがある
場合によっては、融資を受ける際に担保や保証人などの保全が必要になるケースもあります。しかし、創業融資では制度上、無保証で借りられることも多いです。また、昨今は経営者保証なしの融資による創業支援を金融庁や経済産業省主導で推し進めています。
まとめ
最初に申し上げた通り、絶対、創業融資は借りないといけないものではありませんし、事業の性質や創業者のおかれた環境によっては、借りなくても良いケースはあるでしょう。
しかし、創業時には政策的に有利な制度があり、その制度を使えるのは、その方の創業時に限定されています。そのため、迷っているようでしたら、借りることをおすすめしています。